このたびYokoito Additive Manufacturing(以下YAM)は、宇宙ビジネスとデジタルコンサルティングを手がけるDigitalBlast様の小型ライフサイエンス実験装置「AMAZ(アマツ)」のパーツ製作を担当させていただきました。“宇宙に価値を”提供するDigitalBlast様の事業において、どのようにYAMのサービスをご利用いただいたのか、3Dプリントで製作したアイテムを見ながら伺っていきます。
取材ご協力:株式会社DigitalBlast
・宇宙デザイナー 山下コウセイ様
・プラットフォーム開発部 仲田結衣様
聞き手:Yokoito Additive Manufacturing 津田
取材・執筆:淺野義弘
日本の宇宙ビジネスのハブを目指す
▲仲田さん(写真左)と山下さん(写真右)
YAM:
本日は東京のオフィスにお邪魔しました。ずっとオンラインでやりとりしていたので、直接お会いできて嬉しいです。改めて、DigitalBlastの事業についてお伺いできますでしょうか。
山下さん:
宇宙ビジネスに取り組みたい方へのコンサルティングをはじめとして、情報発信やイベント運営、ハードウェア・ソフトウェアの開発も含め、「分かる」「使える」宇宙を創るための総合ビジネスプラットフォーマーを目指しています。ありていに言えば、宇宙ビジネスの経済圏を広げていくことであれば、なんでもやる会社だと思っていただければ良いかなと。今回YAMでお世話になった装置の製作も、宇宙ステーションにおける宇宙実験装置の企画開発といった新規事業の一部になります。
▲DigitalBlastが計画している日本国内初の民間宇宙ステーションのイメージ
(提供:DigitalBlast)
YAM:
最近は民間業者によるロケットの打ち上げや探査機の運用など、世界各国で宇宙を目指す取り組みが活発化している印象があります。こうした流れには、何か時代的な背景があるのでしょうか?
山下さん:
今からおよそ7年後の2030年に、国際宇宙ステーション(ISS)の運用が終了することが決まっています。アメリカをはじめとした諸外国はそれ以降の方針を示している一方で、日本はまだ態度がはっきりしていません。もし他国が新たに作る宇宙ステーションを間借りするだけでは、いろいろな制約も出てくるでしょう。2030年以降も日本の宇宙開発の可能性を閉ざさないために、私たちは多くのプレイヤーを巻き込みながら、日本国内初の民間宇宙ステーションの計画なども進めています。
NASAやJAXAといった国の組織だけでなく、民間企業がプラットフォームを持つようになれば、宇宙ビジネスへの参入障壁は大きく下がります。そう遠くない未来に、さまざまな産業が宇宙に関わるようになり、経済圏も広がっていくでしょう。こうしたイメージを伝え、具体的なアクションにもつなげていくことで、DigitalBlastは日本における宇宙ビジネスのハブになることを目指しています。
重力も制御する、宇宙空間での小型ライフサイエンス実験装置
YAM:
今回YAMでは実験装置の中に設置するカプセルを3Dプリントで製作しました。このカプセルはどのように使うものなのでしょうか?
山下さん:
こちら(写真下)が現在開発中の装置です。「AMAZ(アマツ)」という小型ライフサイエンス実験装置で、小型の動植物を宇宙空間で育成し、その状況をモニタリングするために利用します。最大の特徴は、内部が回転することによる遠心力を用いて人工重力を発生させ、微小重力から地球と同じ1Gや、月や火星などの重力を再現できることなんです。
YAM:
回転で重力を作り出せるなんて、面白いですね。宇宙空間での動植物実験はこれまでも行われてきたと思うのですが、AMAZならではの特徴はどこにあるのでしょうか?
山下さん:
3つの条件までの重力環境における栽培・培養等のデータを同時に比較できるところです。他の温度や放射線環境などの要素が共通となるので、重力による違いだけにフォーカスした実験データを取得できます。サイズは小型で機能もシンプルな装置になっていますが、それは安価でサービスを提供したいという意図があったからです。
宇宙で気軽に実験ができるとなれば、地上にいる人たちも妄想が膨らみますよね。国の機関から実験の採択を受けることは相当にハードルが高いのですが、民間事業者であれば好奇心ベースからでも関われるはずです。さまざまなコンテンツを試すプラットフォームになれればと期待しています。
YAM:
いろいろな植物が宇宙で育つと思うと、なんだか夢が膨らみますね。
山下さん:
人間が宇宙に進出するにあたって、食は避けて通れない問題ですから、ライフサイエンスのニーズは根強いでしょう。現在はその第一歩として、装置のサイズや作りやすさも踏まえてAMAZを設計し、コケを用いた地上実験を行っている最中です。
▲地上で生育実験をしたコケ。カプセルの中身は寒天培地で満たされている。
YAM:
地上で1ヶ月実験したというカプセルの中で、コケがしっかりと育っていますね。設計のポイントはありますか?
山下さん:
気密性ですね。重力による違いだけを計測したいので、外部から菌などが入るコンタミネーション(汚染や異物の混入)を起こさないことが何より重要です。今お見せしているものは、ネジ止め式のカプセルに、Oリング(オーリング)というパッキンや、ガス交換フィルムを組み合わせて製作し、高い密閉性を実現したものとなります。
素材の変更やデータ調整も担うYAMのサポート
YAM:
カプセルの試作にYAMのサービスをご利用いただいた理由を教えてください。
山下さん:
元々インダストリアルデザインの仕事をしていたので、3Dプリンターには親しみがありました。試料容器となるカプセルを開発する際にも、コスト面でメリットがあり、トライアンドエラーがしやすい3Dプリンターを使いたいと思いました。光造形方式で精度の高いFormlabs社のマシンを使いたくて調べていたら、たまたまYAMのことを知りました。法人向けプランがありますし、Formlabs社の正規代理店だということもあり、興味を持ってお願いしたという次第です。
仲田さん:
試作するカプセルの形状にも幅を持たせたかったという背景もあります。たとえば、内部の仕切りの有無で光の当たり方などの条件が変わると、コケの成長具合に影響が出るかもしれません。こうしたバリエーションを試しやすいのも、3Dプリンターならではの特徴だと思います。
実際、コケの生育にはカプセルの素材や完成度が大きく影響しました。最初は展示用に制作したモックアップで試しに実験したら、想像以上にうまくいかなくて(笑)。共同研究を行う富山大学の先生方にもアドバイスをいただきながら、実験を重ねる中で気密性の重要さがわかり、YAMさんともやりとりしながら改善していきました。
YAM:
最初はStandard(スタンダード)のクリアレジンでご依頼いただきましたが、今は生体適合性材料を用いたレジン素材に変更されていますよね。
仲田さん:
Standardでも気密性は問題なかったのですが、素材が持つ成分の影響か、コケがうまく育ちませんでした。そこで、長期的に皮膚や粘膜に接触しても大丈夫だという素材に変えてみたら、栽培実験がうまくいくようになりました。
YAM:
医療用途を想定している素材なので、これまでも菌を培養する際にご利用いただくことはありましたが、まさか宇宙実験装置のために使われるとは予想外でした(笑)。
YAM:
最後に、弊社とのやり取りの中で、良かった点や改善を希望される点があったら教えてください。
山下さん:
タイトなスケジュールの中でも、しっかり嵌合の具合など調整いただきました。データ修正や出力の調整もサポートいただけたことは、本当に助かりました。
仲田さん:
欲を言えば、出力物の仕上げもお任せできたら嬉しいです。今はカプセルの中身を確認するために、私たちで天面を透明にする必要があります。Standardではそれほど問題なかったのですが、今の素材は時間をかけて手作業でヤスリをかける必要があり、かなり大変でした。サービスというよりも、機材や素材自体の制約なのかもしれませんが、こうした後処理もお願いできたらありがたいですね。
YAM:
ちょうどSLS方式の3Dプリントでは、仕上げまで含めた総合ソリューションの提案を始めました。光造形でも素材の提案に収まらず、後処理まで含めた提案ができるように考えていきたいです。
本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!
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